陽はまた昇る<2> デンマークの養護学校の確信 昨年12月13日、第61回国連総会は障害者権利条約を採択した。 「同年齢の市民と同等の権利が保障される」とした「障害者権利宣言」(75年)の具現化が法的拘束力をもって各国ですすめられる根拠となる。 権利条約の核心は、障害のある人を排除しない(=インクルージョン)社会づくりにある。 第24条「教育」は、 教育権の無差別平等の保障とインクルーシブ教育の原則を定めている。 インクルーシブ教育とはなにか? インテグレーション(統合教育)はどう止揚されたのか? ノーマライゼーションの理念で障害児教育をすすめてきたというデンマークの障害児教育の現場でそれを感じたいと思った。 コペンハーゲンの北18キロ、ヴィローム自治体にある養護学校(ゲールスゴース・スコーレン)を訪問し(下の写真) 授業参観し、プレーベン・ハル校長の説明を聞いた。 ◆◆◆ 生徒数は約100名。6歳から9歳の低学年、9歳から14歳の中学年、14歳から18歳の高学年にわかれ、学習障害がある脳性マヒ児、重複障害児、視覚・聴覚障害児の3コースもあり、学童保育所、入居施設(寄宿舎 現在7名が利用)、ショートステイ施設も併設している。 朝9時をすぎたころ、視察団は3、4人の4グループにわかれてそれぞれの授業に参加した(通訳のつかないグループは突然の英会話が求められた(^^;))。わたしは高学年の教室に入った。ようやく朝日が昇り、大きな厚い窓ガラスを通して穏やかな光があふれている。 クラスには、ベッカム似のおしゃれな前生徒会長のサイモン、地味だが着実な現生徒会長トビアス、かなりマヒがきつそうなシルビアとキャスパーの15歳の4名。 クリスマス休暇明けの初日という今日、一人一人の名前と好きな壁紙のパソコンとインターネットを使って、近々見学にいく国会について勉強していた。 このクラスは、今日休んでいる2人を加えて6名の生徒に、教員が2名、さらに資格(ペタゴー)をもった支援員が2名いるそうだ。 10時になると水分補給(おやつ?)タイム。パソコンさばきもじつにたくみで、重度の車いすの子を押しながら廊下を移動するサイモンくんについて先生に訪ねた。 「どうしてサイモンくんのような軽度の生徒が、この養護学校にいるのですか? 地域の学校で学びたいという希望はなかったのですか?」 担任は、 「彼には発作やマヒがあり、病気のためにこの学校を希望した」と答えました。 ◆◆◆ いろんな要素をつうじて「生きるよろこび」を感じて欲しいと教育実践を強調していたプレーベン・ハル校長には、こんな質問をした。 「国連ではインクルージョンが強調されているが、インテグレーションをすすめてきたデンマークとしては今後どのような教育の展開を考えているのですか?」 校長は、 ・サラマンカ宣言(94年、インクルーシブ教育の声明)はデンマーク国会でも大きな議論をよんだ。できる限り通常の学級への統合がよいのではといわれてきた。 ・でも私は、この議論のとき、「この(養護)学校は閉鎖したらいいよ!」と意図的に言った。 ・たしかに、障害児の通常学級への統合は、1、2年生なら可能かもしれない。 親は子どもがかわいい。子どもに力を身につけてほしいと願う。 しかし、通常クラスに障害児が入ることで、そうでない子のメリットが減少すると多くの人は考える。 ・また、障害児の学習、行動面でも普通の子より時間もかかる。 最初はみんな待ってくれるかもしれないが、そのうち待つのが嫌になり、 障害児はクラスの片隅においやられてしまうことが多いのだ。 ・障害児が普通学級に入ると、必ず少数派となり、そのデメリットが多く、 孤立・孤独感が子どもにとって大きなデメリットになる。 ・この(養護)学校では子どもたちにとって同じような環境、ペース、 同じようなことを共有できる。 自分に対する安定性(自己肯定感)が増してくる。それはだれがみても ハッキリしているのです。 この学校の絶大なる自信を校長の発言の行間に感じた。 ◆◆◆ デンマーク社会研究協会の片岡豊さんの論文 (デンマークの障害児教育とインクルージョン、「リハビリテーション」2004年) http://egmont.jp/modules/eNoticias/article.php?articleID=30 によれば、 デンマークは1980年代に「インテグレーション」をくぐって、(それを止揚し)、 「養護学校の見直しがされ、養護学校に通う障害児の数は、1985年から20年の間に、2倍以上も増加しました」。 そして、 「単純に地域教育や統合教育をよしとするのではなく、より専門的な知識に基づき、障害児の個別的な教育ニーズにあった特殊教育を行うべきだという声が高まってきました。 その結果、障害の種類と度合いに応じて、多様な特殊教育が設置されるようになりました」 と言う。 この小論文は興味深いのでぜひ、ご参照を。 障害児教育をめぐっては<3>につづきます。 ◆◆◆ <資料 この間の訪問先メモ> 1993年 ヘルシンガー市 グリュモーセ小学校 http://www.nginet.or.jp/~kinbe/SAS/hokuou3.htm 障害児クラスには、担当教員にくわえて、OT、PT、STが配置。教育は市の責任だが、障害児には県より予算措置がある。音楽の授業などでは発達している子どもを普通学級にインテグレートしている。普通学級の教員が授業することも。共通の行事などでも、できるだけの統合化をはかっている。彼らは安心感があり、休み時間などには教員の部屋に来ることもある。 1993年 スウェーデン・イエテボリ市 アンゲレード高校 http://www.nginet.or.jp/~kinbe/SAS/hokuou6.htm 30か国の子女1400名の生徒がいて、26名が障害児。 2001年 オーフス市 小・中学校(トウスホイスコーレ) http://www.nginet.or.jp/~kinbe/SAS/sedk2001/sedk20015.html 障害児は26名で4クラス。6名の教員は特別クラス専門。義務教育は市(コムーン)が管理、 特別な教育を行う4クラスだけは、特別のコストがかかるため県(アムツ)が管理。 2004年 アレロズ市 基礎学校(小・中学校) http://www.nginet.or.jp/~kinbe/SAS/2004DK/2004dk_5.html 普通の学校の校舎内に、障害児学級が(制度的には小規模な養護学校?)あり、そこで障害児は教育を受けているという「場の統合」。 2007年 ヴィローム市 養護学校(ゲールスゴーススコーレン) 1月1日からの自治体改革で養護学校は県より市に移行したが、この学校はリージョン(広域連合)が運営する。 ▲訪問した養護学校の側の街角 |