『ヨーロッパ便り』という、
昭和44年9月というから1969年に発行された
糸賀一雄さんの本を、
当時、糸賀さんが園長をつとめる近江学園で保母をしていた
高村瑛子さんが見せてくれた。
高村さんは、近江学園が発展したびわこ学園を舞台にした
映画「夜明け前の子供たち」にも、
現役の美しい保母さんとして登場している。
いつだったか、それは成田だったのかアムステルダムだったのかは失念したが
「オランダにいるんだけど、だれか知り合いいない?」
とお電話を突然くれるナイスミドル、ん?ナイスオールド?(^^;)なのだ。
糸賀一雄さんたちの築いた近江学園、
それにつづくびわこ学園などの
重症心身障害児の療育実践と理論研究は
全国障害者問題研究会のメインテーマである
発達保障理論の源流をなすものである。
「この子らに世の光を」でなく「この子らを世の光に」の名文句もある。
さて、その糸賀園長の「ヨーロパ便り」は
1960年の12月に、
デンマーク、スウェーデン、ベルギー、オランダ、
フランス、スイス、イタリア、ドイツの旅の途中で、
日本へ向けて出された手紙をもとにしている。
第1信から3信がコペンハーゲン
第4信から6信がストックホルム
高村さんはその部分だけでも読みなさいと
教育的配慮で見せてくれたのだろう。
この記録はそれぞれたいへん興味深いものだが、
こんな下りを、メモしてしまった。
ホテルの予約などいっさいを日本の旅行社にまかせてこちらに来たが、
ストックホルム以降のホテルの予約を知らせてこない。
それで、コペンハーゲンのSAS(スカンジナビア航空)のカウンターに
せめてストックホルムだけでも予約しておきたいとやってきた。
さて、その応対した彼女言ったことと糸賀さんの内言だ。
いまあなたがほしいのはストックホルム又はそれからさきのホテルの予約でしょ
ところが日本でおたのみになったのが、まだあなたに届いていない。
しかしあなたは明後日ここをお発ちになる。
それならここで改めてあなたのためにストックホルムとブラッセルとパリと
3か所のホテルの予約をとるようにいたしましょう。
至極わかった話である。二重になるようなことはないだろうかというと、
笑って、ともかくあなたの必要なことをさきにしなければなりませんという。
至極ごもっともなことで、なにやら付随して起こってくることは、
まず、あとのことである。
何がいちばん必要かということをさきに決めることが、一番大切なのだ。
この
::何がいちばん必要かということをさきに決めることが、一番大切なのだ
ということばは、
今度の旅でも、ストックホルム郊外のショートステイ先でも聞いた。
レーナは、
自立のための訓練の場としても活用されているショートステイの
職員のリーダーだ。
きっと、アンデルセンの人魚姫というのは
彼女のような北欧風の女性だったのだろうと
胸元の大きな琥珀のネックレスをぼんやりとながめていると、
わたしたちに必要なのは
すこしばかりの忍耐と尊敬心、
そして全体を見る力です。
日本ではいかがですか?
わたしたちも日本のとりくみ知りたいです。
はっとして、わたしはお土産にと数冊かかえていった
雑誌「障害者問題研究」22巻2号の特別号
全文英文の「日本の障害者問題と国際交流」を手渡した。
10月2日の北海道新聞によると、
道内の特別養護老人ホーム職員の4割が「疲れ果てた」と回答し、
「仕事をもうやめたい」が2割。
「ストレスずしり、悩み深刻」「専門的なケア必要」と見出しがある。
「全体を見る力」が大切といえるレーナの国と
疲れ果てへとへと状態のわが祖国。
個人主義の上につくられる民主主義、
そのもとでの合理主義、
それぞれが人生の主人公であるためには、
骨太の人生をゆとりをもって一歩一歩、歩んでいく。
そんな、あたりまえのことを、当たり前のこととして認識できた旅となった。
最後にタイトル「バルト海の休日」について。
行きの成田からコペンハーゲンへの空路は12時間かかった。
床の下は空だとおもうと、なかなか眠れない。
もっていった文庫本は
吉村英夫『ローマの休日 ワイラーとヘプバーン』朝日文庫
吉村さんは『「男はつらいよ」の世界』など寅さん評論で有名な高校教師
じつはわたしの高校時代の恩師の親友という縁。
本は、映画「ローマの休日」が
1947年からアメリカを襲ったいわゆる赤狩りとどのように関連していたか、
ハリウッドにも吹き荒れたマッカーシズムの嵐に反対したワイラーは、
いかなる体験をし、苦渋に満ちた経験をし、挫折をどのように乗り越え、
いかに甦ったか、
それを「ローマの休日」を中心にすえて本格的に論じたものだ。
以下、抜き出し。
1991年、アメリカの脚本家組合は、「ローマの休日」のストーリーを
書いたのはダルトン・トランボであることを公式に追認した。
それにともなって93年故人にかわってトランボ夫人がオスカーを受け取った。
人間不信と裏切りの時代にワイラーは人間信頼を貫く作品をつくりたいと考えた。
決心は赤狩りで追放されたトランボの脚本を読んだ段階でかたまったろう。
メルヘン的ストーリーで現実の政治がからんでないから寓意的なものにできる。
友情や人間的真実をうたいあげる作品が作れるとおもった。
裏切りの時代にあって「ローマの休日」は3つの友情と連帯の物語である
1つはアンとジョー(へプバーンとグレゴリー・ペック)
2つはジョーとアービング(新聞記者とカメラマン)
二人ともアメリカ人とすることでワイラーはアメリカへの希望をうたった
3つは王女と侍従
「ローマの休日」は好きな映画の一つだったけれど、
この本を読んでから、
映画だけにとどまらない、ものの見方が広がったような気がした。
さて、
機内でもらったスコッチやワインを飲んでもなかなか眠れない。
ほろよいかげんでうつらうつらしていると、
着陸態勢に入るという。
コペンハーゲンのカストロップ空港が近づくと
お菓子の家のような懐かしい町並みが見えてきた。
これから飛行機を乗り継いでドイツのハンブルクへ
そこからバスでキールをめざす。
映画のクレジットタイトルのように
「バルト海の休日」とう文字がうかんできた。
太陽にむかって飛んできた旅は、まだ長い一日がつづいている。
(Skal=乾杯!!(^^))
ストックホルムのメラレン湖