バルト海の休日<2>
   第2話その1 自立生活inオーフス

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ペーター・シモンセンは42歳。
(わたしと同い年だ)
頸椎損傷となったのが25歳の夏。
海で飛び込みをしたときの事故で首から下が全く動かなくなった。
彼は銀行、広告会社で働いていた。


デンマーク第2の街・オーフスは人口27万。
大聖堂を中心に旧い町並みが広がり、オーフス大学など大学都市でもある。
街の人は、「世界で一番小さな都会」と言うそうだ。

わたしたちは旅の5日目に
ドイツのハンブルクから列車を乗り継ぎ、
国境を越えてデンマークに入った。
オーフスでは3日目の午前中の活動となる。

「オーフス方式」といわれ、
ここ数年注目されている
障害者自身によるヘルパー雇用制度の現場を見たい、
当事者の話を直接聞きたかった。

街の中心にある市役所から裁判所などを抜け10分ほど歩くと
高層で(といっても5階くらいまでの)レンガ色の(煉瓦の(^^;))
静かなアパート地域が続く。
堀割はすぐに水辺に下りられるようになっていて、
コイかフナかわかならないが、そうした魚たちへ
いくつかのパンがそのまま投げ入れてあった。
(こちらの人も体格が大きいが、魚たちの口も大きいのだろうか(^^;))

その一画のアパート(と彼らはいうが、日本でいれば「高級マンション」だ)
の1階、ヘルパーの当直室含む4LDKに彼は住んでいる。
入り口には駐車場があり、
彼の車は改造され車いすのまま、助手席に座れる。
赤やピンクの小さなバラの花々と、
北欧の秋を彩る朱い実が美しい。
今日はめずらしいほどに青空が広がっている。

「なんでも見てください」
という言葉に甘えて、
失礼もかえりみず、ズカズカドカドカとビデオやらカメラなど撮りながら
(ああ、こういうときは日本人だなあと感じる(;_;))

玄関を入ると右手にヘルパーの詰め部屋
つぎにコンピューターが置いてある部屋
メインマシンはブラックのIBMアプティバで、
プリンターはCANON、
FAXがNECで、
コピー機はリコーだ。
ナイスボデイのヌードカレンダーも貼ってあれば
音楽CDは山積みになっている。

あとで聞くと
「インターネットもやってるし、主にはデザインをつくってる」
「何か日本でもオレにデザインの仕事ないか」
なんて言っていたなあ。

そして、巨大なリビングとダイニングがあって、
彼の寝室とつながってバスルームがある。
それに、資料室なのか空手の免許や日本刀が飾ってある部屋。
だれかが
「5人で暮らしてるあたしのマンションより広い〜」といっていた。

住宅問題を比較し始めると
あまりの違いの大きさに、正直ため息しかでてこなくなる。
デンマークはあの野原のような国土に、
九州と同じ広さに埼玉県民とおなじ500万人しか暮らしていないのだから、
ほとんどが山の日本とは簡単に比較できない感じだ。

住宅問題はこのさいちょっと横において
(本当はこの問題が解決されると在宅での介護問題は大きく前進するのだけれど)
オーフス方式の現状と問題点の話を聞こう。

ただ、その前に1つ
「自立」の考え方の違いの事例をひとつ。
日本では東京の内山くんたちなど頸損のメンバーは
呼気スイッチなど巧みに活用して、
自分一人で、TVをつけたり、窓を開け閉めしたりできるような
工夫をしている。

ところがTVのスイッチなどがベッドのそばにないので不思議に思って聞いてみると
ペーターは合点のいかない顔をして
「そういうことはヘルパーの仕事だ」という。

この国の発想は、
ヘルパーにとって介護しやすいようにさまざまな道具があり、改良されている
ヘルパーのできることはヘルパーの仕事だ
それは24時間そうなのだ。
(うーーんとうなってしまったのだけれど、
  「幸福論」としてどうなのか、、、、
  いづれにせよ、答えは当事者のそれぞれによるし、
  それを総体として「保障」しているということがポイントなんだろう)


「今日は天気がいいので庭で話をしよう」
とペーターがいい、
これからオーフス方式の話がはじまる。

緑に覆われた木々の中で
小鳥のさえずりも聞きながら
ペーターの話がはじまった。
     
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ペーター(真ん中)のアパートの庭で


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