続 発達の芽をみつめて
    
−かけがえのない「心のストーリー」

 近藤 直子 (日本福祉大学子ども発達学部教授・副学長) 

 
定価 本体1800円+税  ISBN978-4-88134-704-1 C3037  2009.4.20

  
表紙

<目次>

序にかえて(PDFファイル)

1章 こころの発達と向き合って
 1 「私のこころ」との出会い
 2 障害のある乳幼児のこころとの出会い
 3 お母さんたちに鍛えられて
 4 生きることと発達と

2章 発達とは、かけがえのない私を築くこと
 1 「できるようになること」が発達なの?
 2 「できるようになっていく」過程で大切なこと
 3 かけがえのないストーリーとしての「私のこころ」
 4 マイナスを含む過程としての発達
 5 父母も私たちも自己を肯定したいと願っている

3章 私たちのこころの発達
 1 こころの発達のプロセスは共通なの?
 2 大人が大好き――だから世界に心を向ける乳児期の世界
 3 大人のしていることを取り入れたい幼児期前半期――「できるようになる」わたしへ
 4 まわりと新たな関係を築きたい幼児期後半期――仲間とともに輝く主人公に
 5 大きさという価値を求める学童期――大人とも仲間とも新たな関係に入って
 6 迷いながらも人生の方向性を模索する青年期――大人との距離をコントロールしつつ
 7 役割を生きる――次世代を育成する成人期
 8 人生の集大成に向けて――老いと死に向き合う高齢期

4章 発達を保障するために
 1 発達の可能性が見えてきましたか?
 2 発達は生活を通して具体化していく
 3 生活を豊かにする活動を保障して
 4 地域を変革する見通しをもって

おわりに


■序にかえて より

 『発達の芽をみつめて』を出版したのは1989年でしたが、その後毎年のように増刷を重ね、多くの方に読んでいただいてきました。でも振り返ってみると、1989年に生まれた子どもたちが、大学に入学してくるようになっているのです。
 ところがその後の20年余りは、「発達しない心理学者」どころか「発達研究をしない心理学者」として生きてきました。
 私生活においても人間の生きていく意味を感じさせられるドラマのあった日々でした。幼いときから葛藤を抱えてきた母が亡くなり、介護を必要とした父も亡くなり、そして結婚35周年を迎えた夫がガンとの3年半の闘いの末に、61歳で人生を終えてしまいました。子どもが発達することはもとより、大人の発達とは? アルツハイマーになった父の発達とは? 人間が生きて死ぬということの意味は? といろいろと学ばされ、「私なりに発達してきた」と思うのですが、夫のように病に向き合い『般若心経』や『歎異抄』を読むほどには枯れてはいませんし、悟りも開いていません。
 でも50代終わりの今だから考えられる人間の発達の本質があるのではないかと思い、結婚35周年の記念に『続・発達の芽を見つめて』をまとめてみました。夫の存命中に書き上げることはできませんでしたが、この本を読んだあなたにとって、自分と親とそして伴侶や子どものことを見直してみる糧となることを祈っています。
    近藤直子
こんどうなおこさん

◆書評 発達の真髄を教えてくれる  高垣忠一郎(立命館大学) 「みんなのねがい」5月号より

 本書は夫君である郁夫氏の死に向かう病と向き合いながら書かれた本であり、結婚35周年記念の亡き夫へのプレゼントである。郁夫氏は亡くなるまえ、拙著「自己肯定感って、なんやろう?」(かもがわ出版)をベッドサイドに置き、愛読してくださっていたという。今回私に書評を依頼されたのも、その縁あってのことだろうと推察する。

 私は「自分が自分であって大丈夫」という「自己肯定感」を自分の心理臨床実践のキーワードとして使ってきたが、本書は「自己肯定感」という言葉に随所で触れ、「自分はダメでも愛されている」という実感から生まれる「自己安定感」の土台のうえに、「自分もなかなかのものだ」と感じられる「自己充実感」が加味されて自己肯定感が生まれるのだと論じている。その論は私にとっても充分に納得のいくものであり、自己肯定感を発達の観点からわかりやすく位置づけ、深めていただいたといううれしさを感じる。

 発達は「できることが増えること」とイメージされ、最近ではできることを増やし自信をつさせることが「自己肯定感」につながるかのように言われることが多いが、発達はただできるようになることが重要なのではなく、意味を感じる活動に主体的に取り組むなかで形成される「こころのストーリー」こそが重要だと述べられる。「できることを増やす」ことよりもどんな「こころのストーリー」を築くかということの方が人間の幸せ(自己肯定感)にとって重要であり、発達とは「かけがえのない私」の「こころのストーリー」を築くことなのだとわかりやすく説いている。子どもたちやご自分の家族の具体的なエピソードを交えながら、乳児期から高齢期までを射程に置いてイメージ豊かに論を展開するその手法は実践的発達心理学者の面目躍如たるものがある。

 とくに本書の圧巻は、直子さん自身の生い立ちと人生のストーリーを編み込みながら、マイナスを含む過程としての発達の人生を掘り下げて論じているところにある。たとえば「人見知り」や「頑固さ」や「偏食」などのマイナスの特性をマイナスのままに終わらせるのではなく、そのマイナスを持ち味として生かしていけるような人生のストーリーを編み上げていくこと。そこにこそ、かけがえのない「私」のストーリーの形成があり、発達の真髄があることを教えてくれていることが、本書の何よりの醍醐味である。
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