子どもの発達に共感するとき 保育・障害児教育に学ぶ 木下 孝司 (神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 教授) 著 定価 本体1700円+税 ISBN978-4-88134-824-6 C3037 2010.5.10 |
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<もくじ> はじめに 第1章 最近、せっかちになっていませんか? ■発達の主体は子ども ■弱い存在だから発達する ■「さっさとしなさい」係数 ■発達や実践をとらえる「単位」 第2章 ほほえみ には ほほえみ ■通じ合えないとまどい ■夜明け前の子どもたち ■シモちゃんが笑った ■ほほえみは発達的に獲得される ■赤ちゃんも「主体性」を発揮している ■愛されている自分を感じる コラム1 血液型性格判断の落とし穴 第3章 世の中には おもしろいことがいっぱい ■最近、お散歩してますか? ■瞳キラリ ■比べて選ぶ主体に ■「何のため」を問う ■「涼む」ことが授業になる! ■「ゆったりじっくり」に込めた思い 第4章 人っていいなあ ■ある保護者の悩み ■自閉症の子どもの悩み ■発達は「つながり」から見えてくる ■「チラリ」に込められた意味 ■共通性とちがいを踏まえた工夫と配慮 ■人っていいなと思える瞬間 コラム2 「わかりやすさ」のトリック 第5章 「わたし」と「あなた」の喜びを重ね合う ■親と子は一心同体? ■「される」人から「する」人へ ■「つもりをもった自分」の誕生 ■わざと悪いことをする ■「わたし」と「あなた」の喜びの共有 第6章 日常の生活で「主人公」になる ■ある日のしんちゃん ■心のなかで思い描く力 ■自ら判断・決定し、思い直す力 ■自尊心の芽 ■わかって、考える生活 コラム3 最近、「間」抜けになってません? 第7章 コミュニケーションのズレに隠されたもの ■コミュニケーションにズレはつきもの ■スプーン投げに込められた本当の願い ■心の世界の広がり ■この「思い」をわかってほしい ■行為の要求と自我の要求 第8章 私のなかの〈私たち〉 ■気づかい合う子どもたち ■個別化(モジュール化)する社会 ■集団を通して個人が輝くとき ■集団の発達―情動からイメージの共有 ■内なる他者とかけがえのない自分 コラム4 モジュール化 第9章 仲間から必要とされる自分 ■ナイショの結婚話 ■「友だち」や集団を意識するころ ■思考をめぐらせ、見つめ直すころ ■心揺らぎやすきころ ■一人ひとりの良さをつぶやく ■必要とされている自分 第10章 変化していく自分 ■そういうこともあるんだよね ■多面的に理解し合う心 ■「○か×か」を越えて ■人情の機微に触れる ■ちがうけど同じ ■だんだん変化していく自分 コラム5 無我夢中になるとき 第11章 教えあう関係を通じた感動 ■要求で育ちあう子ら ■時代を越えた教育目標のリアリティ ■教えあう関係 ■人類「お節介」仮説 ■善意のすれちがいから学ぶもの ■「おじさんにさせないとだめだよ」 第12章 夢中になることで生まれるもの ■「泥だんご病」発生! ■「自分」を見つめさせられる子どもたち ■無我夢中 ■「自分」は探すものではない ■失敗・逸脱・脱線を経て心にのこるもの ■発達理解を通したつながりを コラム6 発達科学って何? 補 章 「発達」のイメージをもう一歩深めて ■「質的転換」ってどういうこと? ■発達段階を把握するのは何のため? ■つなげて、全体像を想像する ■質的転換は「発達の危機」でもある ■自らを変えていくシステム ■障害をもつ子どもの発達―共通性とちがい ■あらゆるものに値札をつける社会 ■「ヨコへの発達」の広がりを ■発達の意味と価値を問う おわりに イラスト/松本春野 |
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◆「みんなのねがい」BOOK (みんなのねがい7月号より) 速読の反対の言葉を「遅読」というのなら、本書は「遅読」でお願いします。 * とても読みやすい文章で、具体的な事例をもとに、発達の見方、障害の見方、子ども・人間の見方を提起されているので、ついつい先へ先へと読んでしまいます。私は、ひとつの章を読んだら、一度、本を閉じて「次へ次へ」とはやる気持ちを静めます。そして、今読んだこと(著者)と対話していきます。 * たとえば、第一章「最近、せっかちになっていませんか?」では、「お手軽に人間を理解する」というフレーズが強く印象に残りました。経済効率追求を最優先する「改革」の中で、子育て・教育にも効率的に子どもを育てるという「効率重視人間観」が入り込み、「お手軽人間理解」が広がってきているのでしょう。私自身にも、そして、私の周りにもこの「お手軽人間理解」がありはしないかと問うてみます。今、障害児教育の現場に押しつけられている「短期に眼に見える成果を出せ」という攻撃に対して、「そんなお手軽人間理解でいいのか」とこの言葉で反撃しようではありませんか。 * 本書は、『みんなのねがい』に2009年度1年間連載された「ゆったりじっくり歩む道のり―自分づくりの発達論」を加筆修正して、発達の基本的なイメージを深めるための補章を加えたものです。また、全障研兵庫支部ニュースなどに掲載したものを加筆修正したコラム記事もあります。このコラム記事を読むと、その時どきの著者の興味や人となりが感じられておもしろいです。 * コラム5「無我夢中になるとき」で、小学生の時にタイムカプセルに熱中した話がありますが、著者は、ひとつのことに熱中するタイプのように思います。保育にかかわることからか、けん玉に熱中したり、全障研大会の兵庫支部交流会では「火縄銃」の話に「こんな話が大好き」と熱中したりしていました。興味の広さと熱中力は研究者の資質なのでしょうか。 * 各章は、発達の順序に従って書かれていますが、どの章にも、事例をもとに保育・教育の課題や現代社会の矛盾への視点があります。それは、「人間の発達を考えるうえで、個人の発達を心理学的に考えるだけでは不十分で」「個や集団の発達には、地域・社会」のあり方が重要であるという信念があるからでしょう。速く読むのがもったいない本書は、1日1章の「遅読」でお願いします。 (全障研兵庫支部副支部長・障害児学校教員 原田文孝) “雪かき仕事”のような地道な仕事の蓄積(全障研しんぶん6月号より) 本書は、実践の中で少し「行きづまり」を感じたときに手に取りたくなる一冊かもしれません。違和感を抱えつつ実践を続けているとき。子どもといても楽しくないなと気づいたとき。ページを捲ってみると、「うん、やっぱりそうだよね」と、肩の力が抜けてくるように感じます。 ただし、本書は「頑張らなくていいんだよ」という癒し系本ではありません。即時的な変化を求めて子どもを追い詰める必要はない、子どもの「ゆったりじっくり」に焦らず関わればよい。けれど、その過程で子どもの本当の願いに迫るためには、「日常的でぱっとしないけれど、誰かがやらないといけない『雪かき仕事』」のような地道な仕事の蓄積が不可欠であるということがはっきりと記されています。それは、実践の中での実際的な作業であり、また、その前提となる知識の積み重ねであり、人間関係の構築なども含まれるのではないでしょうか。そしてそのことは、短期間に目に見えてできることを増やしていくよりも、実は難しいんだということを、社会的背景などにも言及しつつ、やさしくも厳しく示唆されています。と同時に、それでも「よし、明日からも前向いていくぞ」と「『その気になる』ための工夫と配慮」が随所に散りばめられているところに、木下先生のお人柄を感じます。 学生時代、なかなか進まない論文原稿を提出したときの先生の表情に怯えつつも(あの穏やかな笑顔の中で、眼鏡の奥の眼だけ笑っていないというのは想像以上に怖いものです)、指導後は毎回「その気」にさせられていた思い出を抱きつつ…。(兵庫支部 中川 唯) 「速いの痛いもん」の世界から解き放してくれる(Amazonより) 評価 (★★★★★) この本は、娘(2歳)との会話を思い出させてくれます。 私は保育園へと、急いで着替えさせようとしていた。娘は壁に背をつけながら言う。 「速いの痛いもん」 物理的な痛さを言ったのかもしれない。でも私には、「心の痛さ」に思えたのです。 木下さんは言います。ゆったりでいい、じっくりがいいと。その子のキラッと光る姿はそんな時にしか見えてこないから――。 (発達ってムズカシそう)(もっとこの子を分かりたい)――そう思う方に最適の本です。 木下さんの普段着の語り口が、「発達に共感する心」をやさしく解き明かしてくれます。 そして、読み終えたとき、「速いの痛いもん」の世界から、少し解き放たれている自分に気づけるのがうれしい。 T・K |
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