障害者権利条約を考える
国連は、障害者の権利条約の動きを急ピッチですすめ、2006年12月13日国連総会で採択しました。
この間のとりくみによって、日本政府(関係各省庁)とNGOのJDFとの会合や勉強会も定着しました。
全障研は、玉村公二彦(奈良教育大学)、青木道忠(大阪支部長)、中村尚子(副委員長・立正大学)、品川文雄(委員長)、荒川智(副委員長・茨城大学)を国連に派遣し、
加盟するJD(日本障害者協議会)の一員としてJDF(日本障害フォーラム)で任務をはたしています。
また「障害者権利条約資料集1」や「障害者問題研究 特集・障害者権利条約制定に向けての基本課題」を作成するなど、情報収集や分析活動を行っています。
今後、批准にむけてより高いレベルでの国内法の改正にむけて、ひきつづき努力します。
■第61回国連総会 (ニューヨーク 国連本部) 2006年12月13日10:50 障害者権利条約が採択されました
様子を伝える UN Webcast Archive
http://www.un.org/webcast/ga.html
13 December 06
General Assembly: Human rights questions, including alternative approaches
for improving the effective enjoyment of human rights and fundamental
freedoms: note by the Secretary-General transmitting the final report of the
Ad Hoc Committee on a Comprehensive and Integral International Convention on
the Protection and Promotion of the Rights and Dignity of Persons with
Disabilities.
■国連・第8回特別委員会 (ニューヨーク 国連本部) 2006年8月14日〜25日(終了)
第1週に中村尚子さん(副委員長・立正大学)が、第1週から2週にかけて玉村公二彦さん(奈良教育大学)がJDメンバーとして参加しました。
特別委員会は、最終日の8月25日午後8時、条約案全文を採択しました。
今後、特別委員会はいったん「中断」となり、国連総会に最終草案を提出するため、起草グループが設けられ、公用語などへの文言の調整作業が行われます。
そして、特別委員会は「再開」され、承認がされた後、国連総会(会期は12月まで)に条約案として提案され、採択される方向です。
憲法に次ぐ法律として、さまざまな国内法にどのように権利条約をいかしていくのかが今後の大きな課題となります。
○第8回特別委員会の国連サイト(英文)
○JDF条約委員会 特別委員会短報
○JDF国連・障害者権利条約関連資料(各団体などのリンク集)
○障害者権利条約に関する国連総会アドホック委員会における条約作成のための議論概要(外務省)
○DINF障害保健福祉研究情報システム(リハ協)障害者権利条約草案及び選択議定書案(先行未編集版)など
特別委員会(玉村撮影) |
中村尚子さん |
玉村公二彦さん |
藤井克徳さん |
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障害者権利条約 国連総会で採択へ
「同等の権利」(権利宣言)実現の道すじ示す
全障研副委員長・中村尚子
国連で開かれていた障害者権利条約第8回特別委員会(8月14日〜25日)は、最終日に条約案を採択しました。条約案は、前文と50条、選択議定書という構成です(「資料」ページ参照)。今後、条約としての文言の調整などをへて、まもなく開催される第61回国連総会に提案され、採択されることになります。
▼条約提案から5年、早期実現にNGOの力
国連総会で障害者権利宣言が採択されたのは1975年のこと。このとき、障害の種類や原因を問わず、「同年齢の市民と同等の権利」が宣言されました。以来30年、国際障害者年やその後の「障害者の10年」などの国連の活動、これに呼応したアジア・太平洋をはじめとする各国・地域の取り組みが途切れることなくつづきました。
2001年の国連総会で障害者権利条約がメキシコから提案され、特別委員会によってその具体化が検討されることになりましたが、最初からすべての国が条約をつくることに賛意を示したわけではありません。政治や経済を背景とした国際的な関係もからんで議論が続き、草案の段階になってからも、合意に至るまでには長い時間がかかるのではないかと言われていました。
比較的短期間で条約策定の見通しとなったことについては、国際的な障害者運動の力が大きく影響しています。今回の特別委員会は、これまで最高の800名をこえるNGO関係者が傍聴しました。これまでの特別委員会でも毎回NGO代表の意見を表明する場面ももうけられており、そのほかの時間も会合などを開いて、直接、政府代表に障害者の要求を伝える機会が保障されていました。こうしたNGOの力が条約合意を促進させたといえます。
▼第8回
第8回特別委員会は100を超える国と地域が出席。前半は、マッケイ特別委員会議長の提案に基づいて、条約を履行するための国内外のシステム、障害と障害者の定義など、第7回までに明確な文言が示されていなかった部分や、女性障害者、司法へのアクセス、身体の自由、教育、家族など、一致がむずかしい内容を含む条項が議論の中心となりました。
条約ができたなら履行するのは当たり前ですが、そのための監視機構の運営や各国政府による実施状況の国連への報告は、いずれも政府を強く拘束したり、国連の負担増が生じる問題なので、議論が大きく二つに分かれてきたのです。
女性、家族といった条項では、イスラム諸国から国の文化や習慣を色濃く反映した討論が続きました。
▼国際関係も色濃く投影
並行線をたどる討論を、いかにして合意にもちこむのか。後半は、異なる意見の国々が直接話し合いをして、妥協点を見つけた結果を全体会議で提案するという方法で進行しました。
最終日、異例の投票にまで持ち込まれた問題があります。それは、「占領下にある地域の障害者」という文言の扱いです。この文言はもともと「危険下にある障害者」について述べた条項に加えるかどうかを巡って、反対するアメリカやイスラエルなどとイスラム諸国の間で議論されていましたが、最終的にイスラム諸国の妥協によって条文にはせず前文でふれることに。しかしこれも投票となったのです。総投票国は115カ国。賛成102カ国、棄権8カ国、反対5カ国。反対した国は、アメリカ、イスラエル、オーストラリア、カナダ、そして日本でした。
▼定義をめぐって
障害者権利条約は国際的な人権条約としては初めて障害分野に深く言及するために、国際的に共通認識を得なければならない事柄がたくさん盛り込まれています。そのため、「定義」の条項でそうした文言が定義づけられる方向で検討されました。注目された「障害」と「障害者」の定義は、各国の状況が異なることから、明確には書き込まれませんでした。しかし、前文と第1条(目的)に、機能・形態障害があることを前提にして、環境との相互作用によって障害が生じるということが明文化される予定です。
第2条「定義」には、「コミュニケーション」「障害にもとづく差別」「言語」「合理的配慮」「ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン」が書き込まれています。「コミュニケーション」の定義には、ろうあ連盟や難聴者・中途失聴者団体連合会の働きかけによって、手話や文字表記などが盛り込まれました。「障害による差別」の議論では、表面上は障害を理由としていない場合でも結果として障害者を排除する場合の差別である「間接差別」の文言を削除する方向で日本政府が強力に交渉、最終的には削除されました。
▼条約の履行と監視
条約案は第33条で国内実施とモニタリング(監視)を、第34条〜40条で国際的モニタリングを明記しました。国内で条約の実施とその監視をするためには、特別の機関を設立もしくは指定することを定めています。国際的なモニタリングのためには、「障害者権利委員会」を設置することと、締約国は同委員会に対して国内の条約遵守状況を4年ごとに報告することが義務づけられています。
今回、日本障害フォーラム(JDF)は、委員会開催中に国内履行に関するサイドイベントを開催し、インドや韓国などと交流しました。日本でも今後議論を深める必要があります。
議論になった、条約不履行等に関する個人通報や調査制度は、条約本体とは別の選択議定書という形をとることになっています。
▼これからの予定は
この秋に開かれる国連総会で条約が提案され、採択された場合、国連内で、早速、各国、地域機構の署名が始まります。そして、いよいよ各国での批准が始まります。批准国が20カ国になった段階で、発行となります(第45条)。
日本の場合も、条文の日本語訳を作成し、現行法が条約にかなっているかを検討した上で、国会での批准の手続きに入ります。
日本政府がこの条約に対してとった態度は、けっして積極的とはいえません。JDFなどの要請に対して、やっと重い腰を上げたというのが事実でしょう。わたしたちは、批准の前に、国内の実態を条約の水準に合わせて改善させる取り組みを広げていく必要があります。
▼条約を現実のものに
2004年1月、NGOも参加して開かれた作業部会は、前文と24条構成の条約草案を提案、これにもとづいて、第3回特別委員会から政府代表を中心とした議論が開始されました。回を重ねるごとに、障害のある人々の人間としての権利とニーズをみたすための特別な施策、さらには条約を実施するための規則が書き込まれていった結果、最終的な案はたくさんの内容が盛り込まれた、総合的な条約になっています。
いいかえれば、条約は、「すべての人に自由と平等が保障される」ために、政府が、そして社会がなすべき約束事だといえます。これを日本の現実に生かすために、条約についての論議を広く展開していく必要があります。
(全障研しんぶん2006年10月号より)
■NY 玉村報告 8月22日
昨日の提案を受け、各国は独自にそれぞれの国と対話を行っていたこともあり、開会は10時45分と遅れた。
開会にあたって、国際モニタリングのインフォーマルの検討の進捗状況の報告がメキシコ・ゴメス大使からあった。選択議定書の草案が作成され、提起されていること(後に配布された)などが報告された。
新たな提案集成改訂版が昨日アップされ(http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc8contgovs.htm)、それに基づいて、昨日、提案されなかったところを検討していくこととされた。なお、ブラケット部分はこの段階では議論しないこととされた。
各条項がそれぞれ検討されていったが、その概要は以下の通りである。
前文:(v)-bis
第2条(定義):[差別][一般に適用のある国内法][言語][ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン]−[ユニバーサルデザインとインクルーシブデザイン]については、タイの提案は取り下げ、[言語]について、世界ろう連盟と中国の間で協議し、中国は削除提案を取り下げることとなった。
第3条:チリ、ホンジュラス、バチカンなどが提案を取り下げ、第3条は議決・採択された。
第4条〜第6条まで:新たな提案はなく、スキップされた。
第7条:ケニアの提案?
第8条、第9条:新たな提案はなく、スキップされた。
第11条:根本的な問題を持っており非公式協議を継続することが要請された。
第12条:非公式協議の継続。
第13条:バングラデシュの指摘を取り下げ、議決・採択。
第15条:新たな提案はなし。
第16条:エジプト、コスタリカの提案。
第17条:第11条と同様、非公式協議が継続、スキップ。
第18条:カナダの提案の取り下げによって、議決・採択された。
第20条:バングラデシュの指摘の取り下げにより、議決・採択された。
第21条:タイの提案の取り下げにより、議決・採択された。
第23条:家庭と家族については[ブラケット]がのこり、アラブ、アフリカグループからいくつかの提案・懸念の表明有り。
第24条:バングラデシュ、イスラエルは提案を取り下げるも、いくつかの提案があり交渉中。
第25条:[ブラケット]の問題がある。
第26条:合意は近い。
第27条:提案が残る。
第28条:タイトルの[保護(protection)]のブラケットをとる。
第29条:[ブラケット]の問題がのこる。
第32条:国際協力に関する[ブラケット]にかかわる議論。
第33条:スキップ
午前中に第3条(一般的原則)、第13条(司法へのアクセス)、第18条(移動の自由及び国籍)、第20条(個人の移動)、第21条(表現及び意見の自由と情報へのアクセス)の5つの条項を議決・採択した。
午後は、議長の提案で30分の政府代表間での意見交換と条項の提案について協議の時間とされた。それが、結果として、フロアーでの協議は2時間続き、開会は5時からとなった。
開会後、最終条項についてファシリテーターのリヒテンシュタインから説明があった。若干の修正があり(「アクセス可能な形で提供されなければならない」(タイからの提案)の挿入など)、議長としては、木曜日の朝に採択を行いたいとの提案があった。
第28条(十分な生活水準と社会[保護])については、表題のブラケットをとること。また、サブパラグラフ(e)(退職に関する給付)にブラケットがついているのも議論が分かれたわけではなく、第7回の際に出てきたものであり慎重を期しているものであり、ブラケットをとってもよいのではという提案。メキシコの「清浄な水への平等の入手を含む」という提案は、協議の結果、加えられることとなった。しかし、(e)のブラケットの問題は議論が残された。
第9条(アクセシビリティ)、第26条(ハビリテーションとリハビリテーション)、前文についえ前進していることが指摘され、明日に期待がかけられた。30分協議の時間が設けられた。
6時前に、第7条(障害のある子ども)について議論が行われ、ケニアから、協議の結果、パラグラフ1はEUの提案のappropriateをnecessaryに変更して採用、パラグラフ3についてボツニアヘルツェゴビナ、コスタリカの提案が採用されたという報告があり、その文言で第7条は議決・採択された。
午後は、多くの時間をフロアーでの協議に用い、第7条(障害のある子ども)の条項を採択して終わった。
あと3日を残して帰国することになりました。あとの3日間に、すべての条項が採択されるかは微妙な問題です。特に、危機の下で障害者の実態をどのように条約の中で取り扱うかなど、現在の中東の紛争などが影をおとして、障害者の権利条約により複雑な問題をもたらしています。そうした問題をどのように調整していくか、いかるのかが、最後の3日間にかかっていると思われます。この3日間の第8回特別委員会の議事進行に注目していただきたいと思います。
■NY 玉村報告 8月21日
はじめて3つの条文を議決(10条、14条、22条)
議長から、週末、国際モニタリングや定義に関するインフォーマル協議の前進、各国政府による150もの条約の文言に関する提案が事務局に寄せられたこと、条約交渉が最終段階に入っており、この週末には作業を完了させたいことなどが話された。
その上で、議事の進め方について、論争となっている重要な条項は除いて(ブラケット部分)、前文から通覧し、各国の提案を紹介し、反対意見がある場合は挙手し、内容的には提案国と反対の国とインフォーマルな協議を行い、24時間以内に解決して文書で議長へ提出するという方法をとることが提案された。
提案のなかった第10条(生命に対する権利)、第14条(身体の自由及び安全)、第22条(プライバシーの尊重)については拍手で議決された。
事務局から、各国政府の提案集成が配布された(以下のウェブサイトからダウンロードできる http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc8contgovs.htm
議論されたのは、以下の条項である。
前文(g)(n)(o)(p)(q)(s)(u)(v)、第1条(目的)、第2条(定義)[差別][言語][合理的配慮][ユニバーサルデザイン・インクルーシブデザイン]、第3条(一般原則)、第4条(一般的義務)、第5条(平等及び非差別)、第6条(障害のある女性)、第8条(啓発)、第9条(アクセシビリティ)。
そして、第12条(法の前の平等)の議論の際、第11条についてスーダン、リビアなどのアラブグループから議論が出された。第11条(危機のある状況)にはブラケットがあり、複雑な問題をはらむとして集成には入れられていないことが説明されたが、アラブグループからは少なくとも提案集成に入れるように強い要求があった。
午後の審議の中でさらに3つの条文を議決(19条、30条、31条)
議長から、提案集成を、問題を多く含む部分(ブラケット)の提案をいれて作り直すことが示された。なお、提案を送りながらも、提案集成には入っていないものもあることが審議の中で指摘された。
午前からの継続で、第11条(危機のある状況)について、スーダンがアラブグループ共通の立場として「外国からの占領を含む」という文言を提案。反対国、アメリカ、カナダ、日本など。第12条(法の前の平等の承認)については、ブラケット部分があり、議論はスキップされた。以下、次の条項が審議された。
第13条(司法へのアクセス)、第15条(拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由)、第16条(暴力と虐待からの自由)、(第17条(人のインテグリティの保護)については集成に提案が載せられていたが、議論はスキップされた)、第18条(移動の自由と国籍)。
19条(地域社会における自立した生活及びインクルージョン)では、ロシアが提案を撤回し、修正部分がなく、19条が拍手で議決された。
第20条(個人の移動)、第21条(表現及び意見の自由と情報へのアクセス)、第23条(家庭及び家族の尊重)、第24条(教育)、第25条(健康)、第26条(ハビリテーションとリハビリテーション)、第27条(労働及び雇用)、第28条(十分な生活水準と社会[保護])。
第30条(文化的な生活、リクリエーション、余暇及びスポーツへの参加)では、カナダとロシアが提案を取り下げ、この条項は拍手で議決された。続いて、第31条(統計及びデータ収集)も、EUが提案を取り下げ、議決された。
第32条(国際協力)、第33条(国内実施及びモニタリング)が審議された。国内実施及びモニタリングでは、日本政府の提案(パラ2の「独立した仕組みを国内で」という文言の削除など)には非常に多くの反対があった。
午前、午後をとおして、6条項を議決したのは、今回が初めてであり、条項の議決の雰囲気によってさらに合意形成にはずみがついていると思われる。今後、24時間以内に、それぞれの提案国と反対の意見の国とが協議し、書面でその合意事項を提出することになっており、明日以降、ブラケット部分の審議も含めてさらに条約のつめが進むこととなろう。なお、修正版の提案集成は本日中にウェブサイトに掲載されるとのことであった。
■NY 中村報告 8月18日朝 日本政府とのブリーフィング(第7報)
1週間を振り返り、今後の対応について、日本政府と懇談しました。
鈴木代表の話
何とかこの2週間で起草委員会におくるかたちにまで仕上げたいという議長の意識を反映して、速いスピードですすんでおり、途上国の悲鳴がきこえてくる。日本政府としてはこれに積極的に関与しつつ、確保しなければならないことに関しては発言し、すべての人のためのインクルーシブな社会という条約の目的に沿って妥協も辞さない態度で臨みたい。主な論点は、次の各条項と認識している。
第2条 定義 障害の定義はしないという見解。定義のインフォーマル会議にもこの見解で出席する。
第12条 法の前における平等 どちらかといと法律上の技術的な問題である。法的能力をどう理解するか、人格代理などが論点になる。
第17条 involuntary intervention をどうするか
第24条 教育 インクルーシブ教育を志向することで賛意を表明した。どう実現するかが課題だ。
第33条 国内実施 大きな関心。どのようなメカニズムをつくっていくのか、非公式協議に参加して検討したい。
第34条 国際モニタリング 新しい条約体の設置は最終的な合意に至っていない。日本の態度も未定。
JDFからの質問
○教育条項の後者の[ ]の表明の根拠は? 「方向転換」ととらえていいのか
鈴木 現実として特別支援教育がある(つまり、インクルーシブ教育をめざすが特別の場を認めるような文言にしたい、[前者]の選択だと、特別な場が曖昧になる〜ということ)蝦名(文科省) 方向転換ととらえていい。しかし各国が何をどう考えて前者後者を選択するのか、実はギャップがあると感じた。先日の会議で政府として「インクルーシブ教育」への表明をしたので、(その路線の中で)若干の文言の修正を検討したい。
○定義について
鈴木 191カ国が納得する定義は不可能と考えるので、「障害」「障害者」ともに定義は置かない方針。
○代替的雇用(福祉的就労)について新案をというJDFの意見は? 現実に
鈴木 大きな文言修正や新案を提案する予定は全くない。
○要約筆記を手話と同じ位置づけに
鈴木 検討する(これについては、昼頃全難聴の高岡さんが再度訴えたところ、もう少し積極的な態度に)
■NY 中村報告 8月18日(第6報)
5日目の朝、9時〜30分ほど、日本政府とJDFのブリフィングが行われた。
定刻の10時になっても席はあまり埋まっておらず、開会はきょうも遅れぎみ。10時35分開会。
冒頭、議長から今後のすすめ方について説明があった(かなりの時間をとった)。本日からの議事は、前文、および現在の草案各条項について、意見のある国は事前に書面を提出し、それに沿って意見が出た部分について協議する。ただし、その内容は[ ]をのぞくこと。また、その意見に賛成の意見を述べることは控え、反対意見は挙手をし、委員会とは別の場で提案者と話し合って合意点を導き出してほしい。反対意見がなければ「合意」とみなして次へすすむ。1条に充てる時間は30分見当。[ ]のついている部分については、別途時間をとる。
しかし、議事そのもののすすめ方に対する意見がつづいたり、提案への賛成意見を述べる国、[ ]の部分について発言する国、最初に提出されている箇所とは違う文言について発言する国など、なかなか議長の思惑通りにはすすまない。また提案がペーパーになっていない口頭のみの意見は問題外であったが、事務局には届けたが印刷されなかったとか、翻訳が微妙に、あるいは明らかに違うなど、手続き上の行き違いや不備を訴える発言もつづいた。各国の提案を一冊にまとめてほしいという要望が出されたが、事務上、かなり難しいということで、議長の快諾は得られなかった。発言ごとにペーパーが配られ、しかもNGO席までは回ってこないので、それをもらいにいくのも一苦労であった。
以下、意見のあった条文。
[前文]
・s項 <武力紛争>のあとに「外国による占領」を入れる【スーダン】
・ u項 を削除。この条約は国家が個人に対して守るべき義務を定めたもので、個人の義務・権利ではない【ノルウェー(EU)】 本条薬がめざす権利に対して、やや曖昧な記述である【カナダ】
・ p項 障害のある子どもに関するここの記述は、子どもの権利条約の記述とは異なる【シリア】→出典をしらべることになった
・O項 女性と少女への暴力等について記述のうち、「少女」は18歳までは家庭の保護の下に置かれるから、この記述は問題【シリア】
・IDC〜障害のある先住民のことを書き入れたい
このようなかたちで、午前中は第1条から第7条まですすんだ。出された意見はつぎのアドレスに掲載されている。
http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc8contgovs.htm
[第1条]〜文言修正が中国とバチカンなど
[第2条 定義]〜
<コミュニケーション>「ノンバーバルコミュニケーション」を入れてほしい【コーカス】
<障害にもとづく差別> 日本政府が[直接差別][間接差別]の[ ]をとって本文に入れ込むことに異議を述べた。「あらゆる形態の差別」に含み込まれるというのがその理由。しかし、[ ]をとって本文に、というのがここまでの合意であるとの認識が議長から示された。この部分については、個別の協議に。
<合理的配慮> 「不釣り合いな負担」への異議(オーストラリア)、言語のちがいによる含意の相違
<ユニバーサルデザイン・インクルーシブデザイン> その含意について。しかし、議長はこれまで何度も議論してきたのではないかと反論。
[第4条 一般的義務]社会権の漸進的実現に関わる内容で意見【中国】しかし、議長はこれまで何度も議論してきたのではないかと反論。このほか、カナダやアフリカ諸国からペーパーで提案あり。
[第5条 平等と非差別]EU、ICCPR(自由権規約)第26条に沿う内容であるべき。文書提案あり
[第6条 女性、第7条 子ども]EUやバングラデシュからの書面提案の他、いくつかの国から発言。
お昼休みに全難聴とその国際組織によるサイドイベントが行われました。
午後〜細かな交渉が必要な段階にきているので、本委員会は一応休会となりました。さまざまなグループによる非公式会議を開催して、各条項を詰め、本日の深夜までに事務局にテキストとして提案することになりました。
全難聴の文字表記の主張について、政府も前向きな姿勢をとるようプッシュする、またJDFとして意見を出す、ということで、いま、緊急のJDFの会議を開いています。
■NY 中村報告 8月17日(第5報)
今朝も朝からのコーカスミーティングをはじめ、いくつかの非公式協議が行われているために、9時にはかなりの人が行き来している。朝食をここでとる人でカフェも混んでいる。
非公式協議のまとめが長引いたからであろうか、10時になっても、開会をする気配は全くない。時計は、とうとう10時半を回ってしまった。10時40分、開会宣言。
○今後のすすめ方
議長は、議事はほぼ予定通りすすんでいること、一致を見ていない内容は、代表間の非公式協議を展開して調整し、その結果を本会議にもってきてほしいことなどを何度も告げた。そして、午前中はこれから来週にかけての協議事項について整理することに時間を費やすこととなった。こんな具合である。
前文、および現在の草案各条項について、意見のある国は事前に書面を提出する。ただし、その内容は[ ]をのぞいて、条文の趣旨や原理的なことにかぎる。それらにもとづいて、明日以降、順番に協議をすすめていく。1条に充てる時間は30分見当。[ ]のついている部分については、別途時間をとる。
こんな説明をしたあと、前文に意見のある国、第1条について意見のある国…と順に挙手を求めた。まったく手の挙がらない条項に議長は“good”を連発。多い条項では9カ国(第23条 家庭・家族)から手が挙がっていたが、ゼロの条項も多かった。議長はこの作業の途中でも、文書を必ず提出することと、できるだけ事前に協議をして会議に臨むことを訴えていた。
○第23条(家庭及び家族の尊重)
家族に関する条項は、ちょうど私が参加した第4回会議で議論になった部分だった。現在の草案では、前文の最後に[ ]付きで[家族が、社会の基礎的な集団として、障害のある人の権利の完全かつ平等な享有に貢献することを可能とするための支援、情報及びサービスを受けるべきであることを確信し]という文言が検討事項になっており、さらに第23条に独立条項が設けられている。今回は前文の議論はせず、第23条の[ ]の部分に関する集中した討論が行われた。
おおまかにいうと、この条項は、障害のある人が結婚、出産などのプロセスにおいて差別されないことと(家族を形成する権利)、障害のある子ども(人)が家族の中で平等に育てられ不利益を受けないこと(そのために家族への支援が必要)といった趣旨で構成されている(あくまでも「おおまかに」ですが)。今回論議になったのは前者にかかわることで、第1パラグラフの(a)項の次のような文言である。
「障害のある人が、その[セクシュアリティを経験し、]性的関係その他の親密な関係を持ち、かつ、親たることを経験する平等の機会を有すること」
前日の「女性」の議論に似て、アラブ・イスラム諸国からは[ ]の削除や修正案が相次いだ。中国も[ ]の文言とその直後の文言の趣旨が重複していることを理由に削除を求めたが、ついでに柱書きそのものにも異議を述べていた。
このあたりの議論はずっと繰り返されているので、草案には最後に脚注がついていて、そこでは、この条文はあくまでも障害のある人たちの差別の現実をかえるために置かれたのであって、それぞれの国の政策決定に影響を及ぼすものでないことが強調されている。しかし、「わが国の慣習に抵触する」「宗教や慣習のちがいを尊重してほしい」といった発言や代替案などが、先の国々から出された。一方支持をしたのは、EU、カナダ、アメリカ、ラテンアメリカ諸国である。これらの発言は、現実に障害のある人がこうした問題で差別を受けていること、またsexuality の理解について意見を述べる国もあった。バチカンがことばが適切かどうかは検討する必要があるが、こうした問題での原則的なコンセプトを示すことが必要といった意見を述べていたことが印象に残った。
議長は、[ ]の用語の検討は必要で、宗教・文化を尊重することの重要性を述べつつも、この問題は国内法の範囲で対応するということでは障害者の権利が守られないのではないかと、平等の課題としてとらえる必要があることを理解して検討したいと結んだ。
○条約の発効や批准の手続き
4日目午後は、初めて提案された、条約の手続きに関わる文言、ペーパーはなく、ウェブサイトが画面に映し出され、この部分のファシリテータであるリヒテンシュタインのステファン氏からその説明があり、各国が意見を出した。日本政府も一言発言していましたので、JDFの日報を参照してください。
■NY 中村報告 8月16日(第4報)
モニタリング、定義に関するそれぞれのインフォーマルミーティングを、ランチタイム、会議終了後、明朝と、つづけて開催する旨、提案があったあと、本日の最初の議題、「障害のある女性」(第6条)と「障害のある子ども」(第7条)の議事に入った。
○「障害のある女性」「障害のある子ども」
最初に議長から次のような説明があった。
障害者権利条約の中に、女性、子どもという特定のグループの権利に関する条項を設けるかどうかについて、前7回特別委員会で議論された結果、ジェンダーと年齢という視点をすべての条項に盛り込むこととあわせて、これら二つの特別の条項を設けるという「ツイントラックアプローチ」の必要性が確認された。ただし、第4条「一般的義務」に並記するという案もあるし、なによりもその内容はまだ確定してない状態なので、「どこに置くか」「中身をどうするか」について議論してほしい。全体的な事柄は次週の議題とする。
約20の国(地域)から活発な発言があり、ほとんどが議長の提案であるツイントラックアプローチを支持するものであった。
これらの条文案が今回初めて具体的に提案されたので、もっと時間をかけるべきだという意見(シリア)や、特別な集団をリスト化することへの疑問(コスタリカ)、第4条に含み込んでもよい(EU)という内容の発言であっても、原則的には反対しないという態度であった。
第6条(女性)については、この条項の対象がwomen and girls とされている点について、少女と成人女性がまったく同列でよいのかという点での論点、第6条の第2パラグラフの「条約に定める人権及び基本的自由」を「…すべての人権…」するというシリアの発言にかかわって、この部分の修正意見がいくつかあった。
第7条(子ども)は子どもの権利条約の内容を基本においているが、たとえば子どもの権利条約第12条(意見表明権)でふれている、「年齢と成熟に従い…」という文言を加えるべきであるといったさらに細かい文言の修正や挿入などについて発言があった。
日本政府は、2つの条項について基本的に了承したが、「子ども」の第3パラグラフ(意見表明権)について、第7回委員会に引きつづき、懸念を表明した。
最後の4つのNGOから発言は、すべて二つの新設条項を歓迎するというもので、さらにIDCとしての補強する内容を提案するので検討してほしいという発言もあった。
○第24条(教育)
午前の後半から、第24条(教育)の議論に入った。
議長は、あらかじめ、ここでの討論は第24条全体にわたるものではなく、[ ]付きの文言についてのみ集中して意見を出しあいたいということを告げた。第2パラグラフのdの[ ]はつぎの2点である。
障害のある人が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般教育制度内で受けること。障害のある人の個別的な支援ニーズを@[十分に満たすため]A[一般教育制度が十分に満たすことができない環境においては]、締約国、完全なインクルージョンという目標に即して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置が提供されることを確保する。
まず、すべての国がインクルーシブ教育という方向性については賛意を示した。しかし約30ほどの意見を整理すると、@Aの両者ともに削除する、@Aともに採用する、@を採用しAを削除する、Aを採用し@を削除するの4つに分かれた。なかでも、@とAのどちらかを採用するかが最大の争点として残された。
Aを採用する意見の根拠は、一般教育制度がすべての子どもにとってふさわしいわけではない(適切ではないグループとして重度の障害や知的障害が例としてあがっていた)ので、特別な教育サービスの必要性を示すべきだ、「特別なニーズをもつ子どもを一般教育制度に入れる場合の困難を考慮すべきだ」といったところにある。イスラエル、中国、タイベネズエラ、バーレーン、エチオピア、ロシア、シンガポール、マレーシア、チリなどがこの意見であった。日本は初めて基本的にこの条項全体を認め、Aを選択する立場を表明した。
@を選択した国々は、EU(フィンランド)、ノルウェー、カナダ、ニュージーランド、セルビアモンテネグロ、南アフリカなどである。@の選択をした理由としては「完全なインクルージョンを目的とするから」(カナダ)、Aの選択をすることは「二流の教育をつくることになる」(ニュージーランド)などである。
両者の選択のちがいは、インクルージョン教育をどうとらえ、どう実現するかということと深く関わっているようだ。
各国からの発言が一区切りついたところで、NGOから発言を受けた。第一発言者は、これまでの経過から「インクルーシブ教育か選択か」という論議からようやくインクルーシブ教育の方向でまとまりかけてきたかと思ったが、各国政府の議論を聞いて「選択」へ逆戻りしたと感じたと、率直な感想を述べた。そのほかの発言者も、一般教育制度、学校教育そのものの変革なくして、インクルーシブ教育の実現はない、「代替的教育」は例外を認めることになるといった意見が相次いだ。(中村尚子)
午後「教育」続き
午前に引きつづき、NGOからの発言があった。いずれも、[@]([十分に満たすために])を採用するというものであった。国内人権委員会は、教育の権利という観点から、知的障害権利インターナショナルは、法的な義務の有無にかかわらずインクルーシブな教育にならなければならないことを強調し、知的障害のある人も一般的な教育に含まれ、その中で適切な支援が必要であることを強調した。アフリカ南部障害者団体もインクルーシブ教育を主張。IDC(コーカス)は、例外なくインクルーシブ教育が必要であり、一般教育が変わらなければらないことを強調した。
マッケイ議長は、議論を鳥瞰して、(1)2つ目のブラケット([一般的教育制度が十分に満たすことができない環境において])を採用するという意見、(2)二つとも残す提案(ブラジル)、(3)1つ目のブラケット([十分に満たすために])を採用するという意見が出され、(1)が比較的多くの意見となっていたと指摘した。その上で、いずれの意見もインクルーシブ教育を否定するものではなく、バランスをとる必要を強調した。ブランケット部分は、第24条全体にも関わっており、全体の条項の構造を念頭において検討する必要があること、また、モニタリングメカニズムとの関係で、一般教育と特別教育に関して各国の政策・報告などのチェックにも関係してくると提起した。また、教育の条項の第2パラグラフは、社会権であり、資源との関係で完全にインクルーシブな教育を実現するという社会的経済的義務が果たせないことがあることは明らかで、資源に基づいて漸進的に実現することが求められると指摘した。こうしたことを考慮して、どのような文言がよいか歩みあえるものを検討することが要請された。
第25条 健康([性と生殖に関する保健サービス])
マッケイ議長から、健康に関する条項のブラケット部分について、脚注4について、「性と生殖に関する保健サービス」が新たな義務や権利をつくるものでなく、障害の基づいた差別なしに保健サービスが提供されるという非差別を示したものであることが説明された。各国代表の議論では、アラブ諸国、イスラム諸国から「性と生殖に関する保健サービス」の部分を削除するという強い発言があった。文化的宗教的な背景を持つ発言であるが、曖昧で定義について結論が得られない、文化的な問題がある等を理由として、条約の批准のためにならないとの理由があげられた。それに対して、EU、南アメリカ諸国、カナダなどから、障害のある女性などの性と生殖に関する保健サービスが拒否される現実に対して強い懸念があり、ブラケット部分は残すことが強く要望された。アラブ系でもヨルダンは、センシィティブな問題であるとしながらも、性と生殖に関する保健サービスの文言を残すことを主張。中間的には、「国内法に基づいて」の文言を入れる修正案もだされたり、意見の対立の中で文言の削除をしてもよいと立場をかえる国もあった(ノルウェー、アメリカ)。
コーカスからは、アラブの立場であっても、イスラム教の国内法に抵触するものではないことが主張された。マッケイ議長は、障害のある人も同じ保健サービスを受けること、そしてその中には性と生殖に関するものも含まれることについては反対はなく、意見の相違はないことを指摘した。その上で、「性と生殖」には現実的に問題が多いことがあり特に言及していること、しかし、この文言は微妙な問題を引き起こすことがあるので、表記の問題として考慮し、合意にいたることが要請された。(玉村公二彦)
■NY 中村報告 8月15日(第3報)
あさ、少しだけ雨が降った。傘をさしている人も。
特別委員会は10時からだが、座席を確保する必要もあって、9時過ぎに議場に入った。すると、国際障害コーカスの会合が開かれているところだった。30名ほどだろうか。
○モニタリング(つづき)
きょうの議事は昨日の続きの、「モニタリング」から。この条項のファシリテータであるメキシコが、あらかじめ寄せられた質問や昨日の討論のまとめをおこなった。
そこでまた、使用することばについての提案があった。「モニタリング」ということばはネガティブな印象があるので使わないで、フォローアップを含んで、実施(=implementation)メカニズムを用いるそうだ。
議長は、前日の議論を経て条約実施のメカニズムが効果的であってほしいというメッセージは全体に受け止められたことともに、一部に完全には承知していない国が存在する点については、これからのコンサルテーションで解決できるであろうとまとめた。
○国際協力(第32条)
国際協力についての条項をつくるべきであるという認識は一致しているので、〔 〕付きになっている第2パラグラフの内容についてはインフォーマルな話し合いに任せることにしたい、という議長の提案があり、議事は次の協議事項である「第2条 定義」に移ったかに見られた。しかし、その直後から、「定義」にまじって「国際協力」の議論を求める発言がつづいた。収拾策として、終了後、インフォーマルミーティングを開催することを提案したが、急に提案されても予定していないので困る、などなど、すすめ方を巡ってやや紛糾気味。発言はアラブグループとアフリカグループによるもので、国際協力なくして、条約の実効はない、と代わる代わる訴えた。しかし、議長の調整で、何とか次の議題に移った。
○定義(第2条)
冒頭、議長は、定義は難しいが、条約に書くことを目標に議論したいという期待を述べ、
現在掲げられている「定義」の一つひとつ意見が出された。
当然のことながら、「障害」と「障害のある人」の議論が活発であった。「障害とは環境との関係で生じるもの」、社会モデルを定義とすべきだ、という主張が主流であったが、「<障害>の定義は難しいが<障害のある人>の定義は条約の性格上必要である」、「障害と差別の議論を分ける必要がある」といった議論を整理する意見もあった。
この議論の最初のころに発言のあったイエメンの提起も印象に残っている。それはアラブ諸国の専門家や厚生保健関係の大臣による会議で提案されたもので、社会的問題としてとらえた障害(社会的障害)、医学的に見た障害(医学的要素を無視してはならない)の双方から障害をとらえようとするものであった。
議長は、障害のリスト化は本来障害があると認められる人を除外してしまうことへの懸念があるという意見があるのでできるだけ避けたい、たとえば「障害とは以下を含む」としていくつか並べるという方法もあるかもしれない、と言っていた。
2日目いっぱい、定義の議論がつづいた→詳しくは、「JDFの日報」をご覧ください。
■NY 中村報告 8月14日午後(第2報)
「国際モニタリング」のつづき
ファシリテータであるメキシコから提案された国際モニタリングに関する条項案について、午前から午後、丸半日をかけて各国が意見を述べた。
なお、ファシリテータテキストの条項は次の通り。
第34条 障害者権利委員会
第35条 政府報告
第36条 報告審査
第37条 個人通報
第37条bis 調査
第38条 締約国への訪問
第39条 締約国と委員会の共同
第40条 委員会と他の条約体の関係
第41条 委員会報告
第42条 締約国会議
条項案にみられるように、ファシリテータ案は、既存の人権条約に設置されたモニタリングシステムのほとんどを組み込もうとするものである。他の人権条約によることなく、障害のある人々の権利の独自性に焦点を当てて、この条約にふさわしいモニタリングシステムをつくるべきであるとする考え方のもとに提案されている。午後は、時間のすべてを費やして、この案に関する討論を行った。
ほとんどすべての政府代表が、基本的にはファシリテータ案を支持するものであった。その理由として、モニタリングシステムなくしては条約の内容を実現することはできない、既存の人権条約のモニタリングシステムを利用するといったことでは障害のある人々の権利は保障できないという発言をする国々が目立った。また、モニタリングシステムが国連と各国に負担を強いており、これを改革しようという時期にあるために、新しい「委員会」を立ち上げることは得策でないという意見が従来からあったが、そうした現状は認識しつつも、それだからといってこの条約のモニタリングシステムが否定されるものではないという意見も多かった
そうしたなかで、モニタリングシステムを否定する発言が、アメリカ、中国、スーダンあった。また、国連改革との関係での現実性への疑義(コスタリカ)、個人通報制度を義務づけると留保が増えるのではないか(キューバ)、個人通報の部分はオプションとすべきである(タンザニア)などの意見、さらに第三世界の条約の実行においては、国際協力の内容と関わらせて議論すべきであるとの意見があった。この議論において、日本政府は新たな条約体をつくることに関する「情報不足」を理由として、慎重に検討すべきであると発言。各国のコストを勘案すべきである、国連の予算も限られているという曖昧な姿勢に終始した。
最後にIDCの発言の時間があった。国際モニタリング機構が必要である、条約委員会に障害者が過半数以上参加すべきである、重複はさけるべきである。これまでの条約体は障害者にたいする専門性がなく、質も低い。
あすは、質問に答えるかたちをとって、議長から国際モニタリングについての提案がなされる予定。議長は、積極的にインフォーマルな会合を開くことを呼びかけた。(中村・玉村)
■NY 中村報告 8月14日(第1報)
いよいよ始まりました。入り口には車椅子や白状をもった人の姿が目立つ。8時45分に最初のセキュリティチェックをとおり、通行証を作成してもらうまでに1時間以上並ぶ。
議場に着いてまたびっくり。人、人、人…政府代表席はもちろんのこと、周囲の傍聴席もぎっしりで、空席を探すのもたいへんなほどだった。冒頭のマッケイ議長によると、NGOの登録者数は800人。これは政府関係者よりも多いとのこと。最終盤にせまった条約の行方を見届けようという各国のNGOの意気込みが伝わってくる。
議事が始まる。
議長は、先に「手紙」に書いたように、今回の特別委員会は、内容や文言をあれこれいじるのではなく、最終の合意文書に仕上げることが目標であると、何度も強調していた。ここで合意された条約案は、ドラフティング・コミッティーというところで、公用語の使い方や全体に矛盾がないかという観点でチェックを受ける。法案をチェックする内閣法制局のような仕事だろうか。そして、もう一度、委員会に戻して、最終的には第61回国連総会(今年秋)に提出されることになるだろう、とのこと。
しかし、まだいろいろ難しい問題もあるんじゃないかなぁ、と思っていたところ、調整が必要な部分については、問題を感じている国どうし、見解が違う国どうしが非公式に会合をもって、事前に調整し、その結果をもって、特別委員会で発言するシステムをとるという説明があった。だから、政府代表は休む暇なし、というところだろうか。
午前中は、こうした議事進行についての提案のあと、モニタリングについての条文案が提案された。これはメキシコが中心になって事前に協議した結果であり、第34条から第42条の9箇条にわたるかなりの長文で、既存の人権条約において課題となっているモニタリングのあり方から学んだ構成になっている。
形になったのは初めてなので、時間をかけて議論がつづいている。
<主な日程>
14日(月)10−18 開会、修正議長草案 34条「国際モニタリング」、32条「国際協力」 (夜 公使主催懇親会)
15日(火) 第2条「定義」、12条「法の下の平等」、17条「個人のインテグリティの保護」
(昼 JDFサイドイベント「どのような枠組みで国内モニタリングを実施するか」
16日(水) 「女性と子ども」(6、7条)、24条「教育」、25条「健康」、23条「家族及び家族の尊厳」 (昼 JDFミーティング)
17日(木) 11条「危険のある状況」
18日(金) この週の討議で合意に達していない課題
21日(月) 第1週の討議の中で合意に達していない課題、「前文」、第1条〜5条
22日(火) 第6条〜20条に関する主な課題
23日(水) 第21条〜33条に関する主な課題
24日(木) その他の主な課題、条約起草委員会に付託するための最終文案調整
(昼 JDFサイドイベント「条約批准に向けた障害者をもつ人の国会審議へのアプローチ)
25日(金)
■国連・第7回特別委員会 (ニューヨーク 国連本部) 2006年1月16日〜2月3日
第1週に荒川智(副委員長・茨城大学)さんが参加し、22日に帰国しました。
○第7回特別委員会の国連サイト(英文)
○議長草案原文 国連文書(文書番号 U.N. Doc. A/AC.265/2006/1, Annex I)
http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahcchairletter7oct.htm
○障害のある人の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約草案
○リハビリテーション協会「第7回国連障害者の権利条約特別委員会」
荒川智さん |
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■国連・第6回特別委員会 (ニューヨーク 国連本部) 2005年8月1日〜12日
前半に玉村公二彦さん(奈良教育大学)、三島敏男さん(障全協)が、後半に品川文雄全国委員長が参加しました。
玉村公二彦さん |
三島敏男さん |
品川文雄さん |
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■国連・第5回特別委員会 (ニューヨーク 国連本部) 2005年1月24日〜2月4日
●論文 中村尚子(立正大学・全障研副委員長)「私たちの手で障害者権利条約を実現しよう」
玉村公二彦さん |
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玉村公二彦さん |
青木道忠さん |
中村尚子さん |
藤井克徳さん |
市橋博さん |
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第3回特別委員会 (右の写真は動画です) |
NGOコーカスの様子 |
藤井克徳さん |
玉村公二彦さん |
Advance text of the report of the Ad Hoc Committee (A/AC.265/2004/5)
■関連資料
○障害者の権利条約特別委員会の報告(日本障害者リハビリテーション協会)
○障害者権利条約制定に向けて(DPI日本会議)
○第3回・第4回障害者権利条約特別委員会フォローアップのためのワークショップ(全日本ろうあ連盟)
○障害者権利条約に関する国連総会アドホック委員会における条約作成のための議論概要(外務省)
○国連 第5回特別委員会(英文)
・国連・第3回特別委員会 デイリーサマリー(5.24-6.4)(英文)
・特別委員会への作業部会の報告(英文)
・国連「障害者の権利条約」関連邦訳資料 (全日本ろうあ連盟)
・びわこミレニアム・フレームワーク
・国連障害者の権利条約特別委員会傍聴団報告 「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム組織委員会
・「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」(日本語版)
・国際機関等による決議、勧告、宣言(日本障害者リハビリテーション協会)
・国連本部 国連本部のWebカメラ(ライブ映像)
・ニューヨーク市内の今の様子(日本とマイナス14時間の時差)
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