声明=日本国憲法と子どもの権利条約を遵守し、子どもの発達の権利を真に保障する基本法を

声明
日本国憲法と子どもの権利条約を遵守し、子どもの発達の権利を真に保障する基本法を

  2022年5月26日
  全国障害者問題研究会常任全国委員会


 私たちは、障害者の権利を守り、発達を保障するために、自主的・民主的研究運動を発展させることを目的としている研究運動団体です。
 現在、「こども基本法」案が国会で審議されています。基本法の制定は、子どもの権利条約批准(1994年)以来、国内法の中軸として待ち望まれていましたが、今国会で審議中の法案のままでは子どもの発達と権利を保障することができないと考え、意見を表明します。

 「こども基本法」案は第1条(目的)で、「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」といいます。しかし、法の重要な位置にある目的規定には、単に「条約の精神にのっと」ることではなく、「条約を遵守する」ことが明確に示されるべきです。このことは、締結した国際条約を「誠実に遵守する」ことを定めた日本国憲法第98条に照らしても当然です。子どものための基本法の前提として、子どもの権利条約が示す諸権利を実現する立場を明らかにすることを求めます。

 政府は、「こども基本法」案や児童福祉法等の子どもに関する現行の法律において、「発達」をしばしば「成長」(growth)、「自立」(independence)にすり替え、あるいは並列して用いています。「こども基本法」案第一条(目的)の「ひとしく健やかに成長すること」、同第二条(定義)の「健やかな成長に対する支援」、同第三条(基本理念)の「成長及び発達並びにその自立」などです。
 一方、子どもの権利条約第6条は、条約の一般原則として、生命、生存、発達の権利を定めています。この条項を構成する発達(development)は国際的議論において、一人ひとりの潜在的可能性を実現するという概念として発展してきました。そのための条件を保障されることが子どもの重要な権利なのです。また、「発達」の概念には、差別や戦争、搾取などの権利侵害から民主主義的な過程を経て、権利として勝ち取ってきた歴史が内包されています。このようなものとしての「発達」を軽んじ、成熟という意味の「成長」、独立・自活という意味の「自立」を打ち出すことは、子どもの政策を社会の存続や経済成長を志向する人材づくりに従属させることになります。現在の「こども基本法」案は、「発達」を軽んじるという点において、人類が獲得して豊かに発展させてきた発達の権利に逆行しています。

 「こども基本法」案第三条(基本理念)の五は、子ども施策において、養育における父母等の第一義的責任を認識するよう求め、「家庭での養育が困難」な場合に「家庭との同様の養育環境を確保する」と定めています。子どもの権利条約第18条は、どんな場合も保護者がその責任を果たせるように施策を講じることを締約国に求め、国の責任を明確にしているものであって、養育困難に限定するものではありません。だれでも第一義的責任が果たせるよう、すべての子育てに支援がゆきわたる施策を講じることが国の責任であると明記した条文に書き改めるべきです。

 発達を権利としてとらえ、そのための条件を積極的に講じることに対する消極的な姿勢は、子どもの福祉及び教育のための予算がOECD加盟の先進国中最低レベルであることにも表れています。
 全国障害者問題研究会は、すべての人の発達の権利が保障される社会をめざしています。日本国憲法と子どもの権利条約を誠実に遵守し、一人ひとりの悩みや発達へのねがいを大切なものとしてとらえ、権利を保障する核となる子どものための基本法を望みます。

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2022年05月26日